のぞみと紅の婚礼は、夜が少し冷たく感じるようになった晩秋にとり行われた。
 意外にもあやかしはこの季節が好きなのだという。
「あちらさんにとっては夏が稼ぎ時だと言いますけれど、夜が長くなって涼しくなると、ぞぞぞときやすいものですよ。この時期に一緒になる夫婦は多いものです」
 そう言いながら志津はのぞみを包む白無垢の裾を整えている。そして少し離れて満足そうに微笑んだ。
「本当にお美しい…。紅さまもきっとお喜びになりますわ。ねぇ、あなた?」
 のぞみのアパートの部屋である。
 紅へ嫁入りをすることが決まってからものぞみはこの部屋に住み続けている。紅のいる本殿はアパートよりは立派だけれど、完全にあやかし仕様だからのぞみは住めない。
 今日、めでたく嫁入りをしたあとものぞみはこのままこの部屋にいて、紅がここへ越してくることになっている。
 志津に声をかけられた颯太は、部屋の隅にちまりと座って、まだ式も始まっていないというのにもはやボロボロと泣いている。
 そして、「やっぱりまだ嫁に行くのは早すぎるよ」と嘆いた。
「もう少し、兄妹の時間が欲しかった…」
「長い間ほったらかしにしてたのは一体誰!?」と言ってのぞみは颯太を睨む。
 そして眉を下げる彼を見て、くすりと笑った。