のぞみは紅に抱きついたまま、その話に耳を傾けた。
「園に来る親と子を、毎日見続けていればそれがわかるかもしれないと…。だがそうしたところで、何かが変わるというものでもないというのに。所詮私は、心のない天狗なのだから」
 紅は傷ついたように眉を寄せて、首を振る。のぞみは思わず口を開いた。
「紅さまは心のない天狗ではありません」
 だが紅は目を閉じて唇を噛んだ。まるでそう言われるのがつらいのだというように。
「のぞみ、私はのぞみが思うような良いあやかしではないのだよ。長い間この辺りでヌエが好き放題に子を喰らうのを、それがあやかしの定めだとして放ってきたのだから」
 彼はまだ、子を、志津を救えなかった自分を許すことができていないのだとのぞみは思った。
 のぞみは紅の浴衣をぎゅっと掴んで、彼を見上げた。
「紅さまに志津さんの心が癒せなかったのは、心が足りなかったからではありません。紅さまも…志津さんと同じようにつらかったからではないですか。今だって…こんなにも」