「…のぞみ…のぞみ、もう大丈夫だから、目を開けてごらん」
 囁くような紅の声に、のぞみはゆっくりと目を開いた。紅がのぞみと眠る太一を抱いて、嵐の去った夜空を飛んでいる。
 雲が晴れて、月も出ている。
「紅さま。…ヌエは?消えたんですか」
 のぞみは彼を見上げて少しぼんやりとしたまま尋ねる。
 紅がゆっくりと首を振った。
「消えてはいない。だがむこう千年くらいは悪さをすることはないだろう」
 のぞみは安堵の息を吐いて、紅の胸に顔を埋める。紅がのぞみを抱く腕に力を込めて、掠れた声で話し始めた。
「…私には、志津の心を癒すことができなかった。おそらく…私に、私自身に我が子を思う心が足りなかったのだと思う。子を慈しむ心、愛おしむ気持ち…当時の私にはわからなかった。…その心を知りたくてあやかし園を作ったんだ」