のぞみは急いで手を伸ばし、幼子を腕に抱く。目を閉じてはいるもののその身体が温かいことを確認して、のぞみはホッと息をついた。
「お前などに、のぞみを傷つけさせはしない」
 紅の声が荒れ狂う嵐の中にはっきりと響いた。風に髪をなびかせてヌエを見据える紅にはさっきまでの傷はない。
 力が戻ったのだ。
 ヌエがぐるると怯むゆように唸りだす。
 紅が右手を上げてヌエに向けた。
「ま、ま、待て、待ってくれ」
 紅にみなぎる力は圧倒的で強大だ。かなわないと悟ったヌエが、焦ったような声を出す。だが紅が許すはずもないことは明白だった。
「強き者のみが生き残るこの世界で、お前の言うことはもっともだ。だからこそ私は今までお前を放ってきた、…たとえ我が子を食われても。だがもうこれ以上、子を食らうことは許さない」
 冷淡に、紅が言い放つ。