ヌエを無視して、紅が再びのぞみに怒鳴りつける。だがのぞみはそれには従わずに海と陸のギリギリの境目まで駆け寄った。そして白い袋を肩から下ろした。
 何がおかしいのかヌエが再び笑い出した。
「ぬはははは!ワシは人間などには興味はない。だがこの娘が戻らぬときの天狗の嘆く声を聞いてみたい」
 そしてのぞみの方へ向き直る。
「やめろ!!!」
 のぞみを庇うように紅が立ちはだかる。その背中を見つめながらのぞみは白い袋の口を開けた。
「紅さま!ぞぞぞです!」
 その瞬間、袋の口から沢山のぞぞぞが溢れ出す。そしてまるで意思があるかのように我先にと海の方へ飛び出した。
 のぞみには、その一つ一つが子ども達のように見える。
 小さくて色が濃いのはかの子、三つの風船がくっついたような形は鬼三兄弟、それから少しひらべったいのはヒトシで…。みんな一目散に紅の背中を目指す。
 闇夜に眩しいくらいに光り輝くぞぞぞに気がついたヌエが、焦ったような唸り声を上げた。そして紫色の光をのぞみに向かって繰り出した。だがそれはのぞみまで届く寸前のところまできて、赤い光に跳ね飛ばされた。
 ああああー!と声をあげて、紅が立ち上がる。同時に赤い光に包まれた太一が、ゆっくりとのぞみのもとへ下りてきた。