頬を濡らす涙を拭いてのぞみは力強く頷いた。
「そうしましょう」
 そして二人で子ども達を集めて、サケ子が"ぞぞぞ"を小さくちぎって一人一人に食べさせる。
「美味しーい!」
「あまーい!」
「のぞ先生ありがとう」
 お腹がくちくなった子ども達が笑顔を見せて、少しだけその場の空気が和らいだ。
 だがその時、おおーん!という獣が唸るような音が響いた。ビリビリと窓ガラスが揺れて今にも破れてしまいそうだ。
 子ども達がまた不安そうして、サケ子の周りを取り囲む。
「びびるんじゃないよ!あやかしの子が。しっかりおし」
 今度はサケ子は動じることはなく、子ども達を抱えて、どっしりと構えている。だがこづえがのぞみにだけ聞こえる声で呟いた。
「これはまずい」
「…どういうことですか?」
 のぞみもまたこづえにだけ聞こえる声で聞き返す。こづえは難しい表情で天井を見上げた。
「ヌエの声がここまで聞こえてくるのは、紅さまの結界が薄らいでいる証なのさ。…紅さまが、劣勢なのかもしれない」
 のぞみは叫び声をあげそうになって、かろうじてそれを堪えた。だが心は乱れに乱れてどうにかなってしまいそうだ。
 もしも紅や太一に何かあったら、自分はとても生きていられそうにないと強く思う。