「こづえさん、ヌエはどのくらい強いんですか?紅さまは…太一君は無事に戻れますよね?」
 こづえが難しい顔で黙り込む。
「こづえさん!!」
 のぞみは悲鳴のような声をあげた。
 部屋に来るようになってからは、こづえはあやかしの世界をのぞみにおしえてくれる先生だった。いつもどんなときも忌憚のない意見をのぞみにくれていたというのに。
 なぜ今答えてはくれないのかと、のぞみは思わず彼女の腕を掴み揺さぶった。
「力は…紅さまの方が上だと思う」
 こづえが声を絞り出すようにして話し始めた。
「だからこそ、ヌエは紅さまをずっと狙っているんだ。あいつは恐ろしく野心家で…自分よりも強くて人間に信仰されている紅さまが、羨ましくて仕方がないのさ…それでも」
「それでも…?」
 こづえは唇を噛んでから無理やりといった様子で言葉を続けた。
「紅さまはここを…、山神神社を守るために結界を張って下さっているから、普通よりは力が衰えているはずだ。だから、あるいは…。しかももし太一を向こうに押さえられているとしたら、尚更身動きがとれないだろう」
「そんな…!」
 のぞみは絶句して立ち尽くす。だが後ろでどさっという音を聞いて振り返った。
 サケ子が色を失った顔を強張らせて、座り込んでいる。
「!?…サケ子さん?」
 こづえが眉を寄せてサケ子をじっと見つめた。
「口裂け、…大丈夫かい?」
 だがサケ子はこづえの問いかけに答えられないようだった。蒼白のままうつむいて、あざになりそうなくらいに強く自分の腕を掴んでいる。