兄としっかり話をしよう。そんな気持ちを胸に抱いて、園に戻ったのぞみを待ち受けていたのは青い顔をした颯太だった。
「し、志津…!!た、太一が、太一が!」
 慌てふためきすがりつく夫に志津は形の良い眉を寄せる。
「一体、どうしたんです?…太一は?」
「い、いなくなってしまったんだ、のぞみを探すと言って!!」
 颯太の言葉にさすがの志津も青ざめて言葉を失った。
 颯太と二人になった太一は颯太の妹がのぞみだったことを聞かされてひどく怒ったのだという。父ちゃんはのぞ先生にひどいことをしたと。そして自分ものぞみを探すと言って森の方へ駆け出した。
 当然颯太は追いかけたが、子どもとはいえ、あやかしの太一には敵わない。見失い途方に暮れて園に戻ってきたのだという。
「もしも結界から出てしまっていたら…!ヌ、ヌエに…!」
 悲痛な声を上げて膝から崩れ落ちる志津の隣で紅が目を閉じる。途端にざざざと風が吹いてバサバサと木の上のカラス達が飛び立った。
 真っ赤な目を見開いて、紅が厳しい表情で首を振った。
「だめだ、…結界の中にはいない」
 あぁと言って志津が泣き崩れる。のぞみはそれを支えるように抱きしめた。
 ごうごうと風が唸るような音が、黒い空から聞こえてくる。