でも蓋を開けてみれば、自分が捨てられた側だったとは。
 会いたいといつまでも思い続けていのは、きっとのぞみだけだったのだ。颯太の方は、とうの昔にのぞみのことは切り捨てて新たな幸せを築いていた。
 志津と太一という宝物と一緒に、幸せな家庭を…。
「のぞみ!!結界から出るな!!」
 鋭い紅の声を聞いたと思った次の瞬間強く腕を掴まれて、大好きな白檀の香りに包まれる。そしてそのまま夜空へと飛び上がった。
 一変する景色に目を閉じて、次にゆっくりと開いた時は、いつもの大木の上だった。
「紅さま…」
 のぞみは紅の胸にすがりつく。
 いつのまにか頬がびしょ濡れに濡れていた。そしてそのまま声をあげて泣き出した。
 施設にいたときも短大の寮にいる間も友人はいたけれど、いつもどこかで怯えていた。本当は自分は一人なのかもしれないと。
 誰もいない闇が怖くて眠れない夜もあったけれど、それでも兄がいつか迎えに来てくれると、そう信じて沢山の夜を乗り越えて来た。
 だがそんなものは幻想でしかなかったのだとのぞみは今思い知る。自分は、本当に一人だったのだと。
「紅さま、紅さま…!!」
 まともに言葉を紡げなくなるほどに我を忘れて泣きじゃくるのぞみを、紅の腕が優しく包む。そしてひたすら背中を頭を撫で続けた。
 何度も何度も。
 やがて泣き疲れて頭がぼんやりとしてきた頃、ひっそりとのぞみと紅に近づく者がいた。
 天高くそびえる大木の枝の上、こんなところまでついて来られる者は…。
「のぞみ先生…」
 呼びかけられてのぞみは緩慢な動きで振り返る。
 志津だった。