こづえはそんなのぞみの様子には気が付かずに、難しい顔で眉を寄せる。
「何しろのぞみに対する紅さまのあの執着は尋常じゃなかった。もともと、長(おさ)さまとしては口うるさい方ではないんだ。だから、この辺りのあやかしはのびのびとしていられるんだよ…それなのに…、いやだからこそ、尚更私は恐ろしい…」
 こづえは口元に手を当ててぶつぶつと言う。
 だがドアの方から、「心配症だなぁ、こづえは」という紅の声に遮られて口をつぐんだ。
「のぞみは出ていかないよ。絶対に」
「紅さま!」
 かの子が紅に駆け寄るのを苦々しい表情で見つめてから、こづえはのぞみのを方をチラリと見る。
 そして、「ほらほらほら、やばいよこれは」と呟いた。
 のぞみは慌てて口を開く。
「あの、こづえさん。言いそびれていましたけど、私…その…」
 こづえには、本当のお嫁さまではないことを打ち明けていたから、このように心配をしてくれているのだ。