「そうだった!今日の寄り合いで聞いてきたよ。のぞみのお兄さんのこと」
「…え?兄のことを?」
 のぞみが呟いて顔を上げると、機嫌良く頷く紅と目が合った。
「私は、あやかし探しなら得意だけれど、人間となるとからきしダメだからね。人のことは人に聞くのが一番だと思ってさ。今日は地域の情報通が集まる寄り合いだし、ちょうどいいからいろいろと聞いてきたよ」
「紅さま…」
「まぁ、小さい街とはいえ、最近では人の出入りも多いからあまり期待はしてなかったんだけど」
 そう言って紅はのぞみをじっと見つめた。
 のぞみの胸がドキドキと鳴った。
「商店街にある小さな寿司屋に数年前から働いている寿司職人が、『君島』というそうだ」
「本当ですか!?…きゃ!」
 のぞみは声をあげて立ち上がる。だがその拍子に勢い余ってぐらりと体勢をくずし枝から落ちそうになった。
 それを危なげなく受け止めつつ、紅が眉を寄せた。
「のぞみ、まだ本当にその人が君のお兄さんかどうか、わからないんだ。あまり期待をしすぎないようにしなくては、違ったときにつらい思いをするよ。…だから、私も本当はまだ言わないでおこうと思ったのだけれど」
 彼の心配そうな表情を見つめながら、のぞみの胸は感謝の気持ちでいっぱいになった。
 今夜紅は、駅前の商店街の寄り合いに顔を出したのだが、これはとても珍しいことなのだとサケ子が言っていた。