のぞみは必死で首を振った。
「そ、そうじゃなくて、私、い、今すぐにお嫁さまになるとは言ってません! 紅さまもいずれでいいと言ったじゃないですか!」
「え?そうなの?」
 紅がぴたり動きを止めて、のぞみを見た。
「…そうです」
 のぞみの言葉にショックを受けて、ぽかんと口を開けている紅を見て、のぞみの胸がちくりと痛んだ。こんなに喜んでくれているのにと。
 それでも言わなくてはとのぞみは思う。そうでないとすぐにでもアパートへ連行されてしまうだろう。そしてすぐに"婚礼"だ。
 のぞみは唖然とする紅から視線を逸らし、街の灯りを見つめて少し長いため息をついた。
「ごめんなさい、紅さま。私…この街へは兄を探しに来たんです。このまま紅さまと夫婦になるのだとしても、できれば…結婚式には兄にも来てもらいたい…私の、たった一人の家族なんです…」
 あやかし園に休みはない。
 親たちの仕事に土曜も日曜もないからだ。それでも人間の保育園と同じように、のぞみは休みをもらっている。
 その休みを利用してのぞみは兄を探しを続けていた。
 だが未だ手がかりは掴めないままだった。
 少ししょんぼりとしてうつむくのぞみを見つめていた紅が思い出したように声をあげた。