「大丈夫、のぞみ以外は嫁に取らない。稲荷の親父にはもう誰もよこさないように言っておくよ。のぞみが嫌ならあのアパートは取り壊して、別に二人の新居を建てよう。最新家電を入れてのぞみが住みやすいように」
 紅がのぞみに頬ずりをしながら甘く耳に囁いた。
 のぞみは頬を染めて首を振る。
「そ、そこまではしなくても…。私あのアパート好きなんです。こづえさんと、かの子ちゃんが遊びに来るあの部屋が…」
 それにあのアパートは、サケ子やこづえ保育園の子ども達、それから紅に出会うきっかけとなったのぞみにとって大切な場所だ。
 なくなるなんて寂しすぎる。
 いつのまにかのぞみの頬にあった紅の手が移動して、のぞみの唇をそっとたどる。
(紅さまの目、きれい…)
 ぼんやりとのぞみがそんなことを考えたとき紅の長いまつ毛が近づいて、唇に柔らかい口づけが降ってきた。