のぞみはうつむいて少し考えを巡らせる。人同士ならば当たり前のことだけれど、紅は天狗であやかしの長(おさ)だ。もしかしたら非常識な願いかもしれないという考えが頭に浮かんだ。それでもやっぱり言わなくてはとのぞみは思う。これだけは譲れない。
「アパートに…、他の女性を入れないでください。つまり、その…お嫁さまは私だけにしてくだ…」
「もちろんだよ!!」
「きゃあ!!」
 最後まで言い終わらないうちに再び紅がのぞみを抱きしめる。
 もうだいぶ慣れたとはいえ、やっぱりのぞみは驚いてしまう。それでも、紅の言葉には大きく安堵した。
 あやかしの常識、人間の常識、違いは沢山あるだろうが、なるべくのぞみも合わせるように努力しようと思っている。だがこれだけはどうしてもあやかしのように割り切ることはできないだろう。
 そのくらい彼のことを愛おしいと思う。