「以前は、私もサケ子も子どもたちを預かるだけで、子どもたちに積極的に関わろうとはしなかった。もちろん寄って来れば頭を撫でてやるし、危なくないように目は配るけど、それ以上のことはあやかしの子には必要ないと思っていたからね」
 確かに働き始めた頃にびっくりしたのは、サケ子が子ども達のことにはほとんど手を出さないことだった。
 よほど危ないか、声をかけられるかしない限り、話をすることもない。
 短大で人間の子の保育を学んだのぞみからしたらちょっとした衝撃だった。
 それでも、サケ子自身は決して非情なあやかしではないのは承知していたから、それがあやかしの中では当たり前なのだと思うようになったのだ。
 そこまで考えを巡らせて、のぞみははたと思い当たる。確かに初めはそうだった。でも最近のサケ子は…。
「今じゃ、彼女もよく子どもたちと遊んでいるだろう?」
 のぞみはこくんと頷いた。
 そういえばそうだった。
 一緒に遊んでやったり、掃除をしたり、時には人間を怖がらせて"ぞぞぞ"を出させる方法を伝授したりと、あやかしの先生にしかできないやり方で子どもたちに関わっている。
「以前もきちんと仕事はしてくれていたけれど、彼女自身が仕事を楽しんでいるかどうかは不明だった。しかも私もそれを考えたことすらなかったよ。でも今は、彼女ものぞみと同じように子どもたちと過ごす時間を楽しんでいるんじゃないかな」