「し、志津さん、大丈夫です。私、今はこれでよかったって思ってますから。あやかしの子どもたちの先生をさせてもらえるなんて人間の中じゃ私くらいでしょう? むしろラッキーだったって思うくらい」
 のぞみの言葉に紅は得意そうに眉を上げて、「ほーらね」と言った。
 志津はそれでも納得はせずに、のぞみの両手を取り、少しだけ首を傾げてじっと見つめた。
「のぞみ先生、先生は太一の恩人です。いえ太一だけでなく、私ものぞみ先生にたくさん勇気をいただきました。…その先生をうまく言いくるめて、知らないうちにお嫁さまにしてしまおうという輩は、たとえ紅さまでも許しません」
 志津はそこで言葉を切って、鋭い視線で紅を睨んだ。そしてもう一度のぞみに向き直る。
「先生、困ったことがあったらいつでも私におっしゃってくださいまし。キツネの一族は紅さまにだって負けません」
「あ、ありがとうございます…」
 志津の勢いに押されるようにのぞみはこくんと頷いた。
 背後で紅が、「やれやれまたうるさいのが、のぞみの味方に付いてしまった」とボヤいた。