志津が困惑しながら形の良い眉をひそめる。のぞみはそれを見つめながら、あらためて彼女が紅の妻であったことに納得がいく心地がした。
 今まで会ったあやかしたちは、誰ものぞみの話を聞いてはくれなかったというのに。
 紅が気まずそうにそっぽを向いた。
「私、あのアパートが紅さまのお嫁さまのためにあるなんて知らなかったんです。ただ、安いアパートがあるからって言われてここに来て、なんだか何もわからないままに入居してしまって…。後になってこづえさんから事情を聞いて本当にびっくりしました。だから、みんなが思うようなお嫁さまではないんですよ」
 話をしている間に、みるみる志津の目が釣り上がっていく。白くてふさふさとした尻尾がぴーんと立った。
 そしてそうっとその場を離れようとする紅をジロリと睨むと、「紅さま、どういうことです?」と彼を止めた。
 紅がため息をついて振り返った。
「のぞみはすごく怖がりなんだ。あやかしのアパートだって知ってたら、入ってくれなかったよ」
「だからって!のぞみ先生を騙したんですね!」
「人聞きが悪いなー、少しだけ事実を隠していただけさ。そのことはもうすでにのぞみには謝って解決済みさ」
「だからって!」
 青筋を立てる志津と心底うっとおしそうな紅、のぞみは慌てて二人の間に入った。