「では太一は私と恋敵になるわけだね。子どもだからって容赦はしないよ」
「こ、紅さま!」
 のぞみは振り返って声をあげた。
 大人たちならともかく子どもにまでありもしない嘘をつくなんて、どうかしてるとのぞみは思う。それなのに、紅の方はそんなのぞみには構わずに、太一に向かって語りかける。
「それに太一、おっかさんに言う前にまずはのぞ先生に確認しなくちゃいけなかった。そんなところはまだまだ子どもだね」
 のぞみは紅を睨んで、太一に向き直ると肩を掴んで彼を見つめた。
「太一君、そんなふうに言ってくれて先生とっても嬉しいな。太一君が大きくなったら考えようね。それから、先生は紅さまのお嫁さまではないのよ。紅さまは冗談がお好きだから、いつもああやっておっしゃるだけで…」
「そうなのか?!」
「そうなんですか?!」
 太一と志津が同時に声をあげる。志津が驚いていることに、のぞみの方も驚いてびくりと肩を揺らした。
 それでも二人に向かって頷いた。
「実はそうなんです」
「でものぞみ先生、先生はアパートに住んでいらっしゃるでしょう?それに私…夫と結婚してからはあやかしの世界からは遠ざかっておりましたが、紅さまが人間のお嫁さまを迎えられたという話は、耳に入ってまいりました。それなのに、これはいったいどういう…」