その日、のぞみは鬼ごっこに加わっていなかった。紅が町内会の寄り合いという名の飲み会に参加するため保育園にいなかったからだ。
 初日に沢山の傷を作ったときに、紅がいないときは外遊びに加わらないと約束させられた。
 さらに言うと部屋で遊ぶのが好きな子ども達から、「のぞせんせーばかり見てる紅さまとのおままごとはおもしろくない」という不満が続出していたから、のぞみはおままごとチームに入ることにしたのだ。
 太一は鬼の子を除けばもうほとんど園に溶け込んでいる。のぞみがいなくても問題はないはずだった。
 そうして降園時間が近づいた頃、園庭で歓声があがった。
 慌ててのぞみが出てゆくと、太一が六平を池の中で取り押さえていた。
「やったぁ!!ついにオイラたちの完全完璧大勝利だ!!」
 池のそばで、ヒトシと長次郎がバンザイをしている。太一が得意そうに手を上げた。
「のぞ先生!ついにやったぞ!オイラたちの作戦勝ちだ!」
「すごーい!!やったねぇ」
 そう言いながらのぞみは園庭に駆け出した。そして池の中の二人に近づく。六平も太一もとにかくドロドロだった。
 晴れあがった空のように清々しい表情の太一とは対照的に、六平は不本意そうにむくれている。
 のぞみは彼に微笑みかけた。
「ろっくんもすごかったよ」