アパートに灯るのぞみの部屋の灯りを紅は巨大な木の上に腰掛けて、見つめている。
 結界の中は安全だ。
 のぞみに害をなすあやかしはもちろん"あちらさん"だって入っては来れない。
 それでも彼女がここへ来てからは、少なくともあの灯りが消えるまではこうやって毎日見守るのが紅の日課になっていた。
「…紅さま」
 音もなく現れたのはさっき帰っていったばかりの志津だった。
「帰ったんじゃなかったのかい」
 紅はのぞみの灯りからは目を離さないまま返事をした。
「…一言お礼を申し上げたくて」
 白いキツネは首をたれて、少し離れたところに控えている。