「お取り込み中、申し訳ありません」
 やや固い表情で志津はしなりと頭を下げた。今日も藍色の浴衣が涼しそうだ。夜目に、白い耳が美しい。
 びくりと肩を揺らすのぞみを腕の中に抱いたまま紅が口を尖らせた。
「本当だよ、いいところだったのに」
「こ、紅さま!!」
 のぞみは慌てて紅の腕から脱出する。そして変なところを見られてしまったと赤面した。
「し、志津さん、こんばんは。…どうされたんですか、こんな時間に」
 今日も太一は彼女と一緒に帰ったが、この時間になってわざわざ戻って来るとは何かあったに違いない。
「…太一君は?」
 のぞみは辺りを見回してから志津に尋ねた。
「家におります。父親も帰ってきましたゆえ、置いてまいりました」
「そうですか」
 胸を撫で下ろすのぞみを見て、志津が微笑んだ。