紅はもう誰もいない灯りが消えた保育園を振り返った。
「だからそういう意味ではあやかし園は、あやかしの世界ではものすごく特殊な場所なんだ。普段なら互いに顔も合わせない違う種類のあやかしたちが集まるわけだから」
 それでも均衡を保っていられるのはおそらく長である紅の存在が大きいのだろう。
 そしてそこにはある一定の秩序が必要ということか。つまりは、強い者にやたらと関わっていかないという…。
 腕っぷしが劣るのに威勢がいいことを言う太一を子どもたちが嫌がるわけがわかった。本能的に、その秩序を乱すような行為だとわかっているからだ。
 ようやくのぞみにも、太一があやかしの子としてどうすればいいのかがわかってきた。だがそれでも、とのぞみは眉を下げて紅を見た。
「…なんとなくはわかりました。でも、大人の世界ではそうだとしてもせめて子どものうちは…保育園の中では強くても弱くても仲良くってわけにはいかないんでしょうか。たぶん太一君は、みんなと関わりたいんだと思います。その気持ちは…私も人間だから、わかる気がします」
 紅がまたうーんと首を傾げた。