「紅さま、太一君のことどう思われますか。なかなかうまく馴染めていませんよね」
 ある日の帰り道、のぞみは紅に問いかけた。
 太一が来てから二週間が経っていたが、のぞみがいくら止めても無理やり暴れん坊組に混ざりたがる彼の怪我は増える一方だった。
 のぞみの手を引いて少し先を歩いていた紅が、足を止めてゆっくりと振り返った。のぞみは繋いだ手に視線を落として、しょんぼりとうつむいた。
 ここのところ、仕事以外の時間も太一のことが頭から離れなかった。人間の立場から彼をサポートすると言ったくせに、何もできていないのが不甲斐なくて情けない。
 そんなのぞみの頭を紅が優しく撫でた。
「のぞみのせいではないよ。志津の子を入れると決めたときからある程度の騒ぎがあると予想はできていたからね」
「でもこのままじゃ、太一君保育園を嫌いになっちゃう…」
 それどころか人間もあやかしも嫌いになるのではないだろうか。そしたら彼の居場所はどこになるのだろう。
「難しいね」
 紅が言った。
「あやかしの世界は基本的には弱肉強食だ。でも強いからといってむやみやたらと弱い者をいじめるようなこともないはずだ。だからある意味で、敵わない相手に歯向かわないというのが全てのあやかしの生きる術なんだ。太一がそれを覚えるのを待つしかないかな」
 サケ子と同じようなことを言う紅の言葉をのぞみは、悲しい気持ちで聞いた。
「でもそれじゃあ、弱いとされるあやかしがかわいそうじゃありませんか」
 のぞみの言葉に紅はうーんと唸って首を傾げた。
「べつに弱くて損をするというわけでもないんだよ。のぞみ、あやかしというのは人間ほど互いに関わり合っているわけではないからね。べつに敵わない相手がいても気にならないというか…なんの影響もないというか。だから強い者に歯向かわないというのも、べつに従えと言っているわけではなくて、関わるなということなんだよ。人間と違ってあやかしは情が薄いからね」