のぞみは志津を安心させるように語りかけた。
「私にはあやかしの力加減はわかりませんが、ここにはサケ子さんもいらっしゃいます。だからあやかしと人間、両方の面から太一君の成長を見られると思います。一緒に頑張りましょう」
 志津がまだ少し赤い目を瞬かせて、少し安堵したように頷いた。
「はい、よろしくお願いします」
 そして、鳥居の方へ消えて行った。その後姿を見つめながら、のぞみは思わずため息をついた。
「綺麗な人ですね…」
 あやかしの見た目年齢は、いまいち不明だが人間に例えると、"とても太一くらいの子がいるようには思えない"といったところだろうか。それでいて人妻特有の色気はたっぷりとあって…。
 そんなことを思うのぞみの頭にいつのまにか紅の手が乗っている。
「志津は、隣町の稲荷神社の娘だよ。お稲荷さんといえば人の信仰の対象だから、"ぞぞぞ"を稼ぐ必要はないはずだ。だが、太一のために保育園へ預けることにしたのだろう。あやかしの子として生きるのか、人間社会に紛れて生きるのかはわからないけれど、どちらでもいいように」
 なるほどとのぞみは納得する。
 人間に紛れるためには、社会性は必要だ。小さいうちにそれを学べる場は、保育園、あるいは幼稚園。太一の場合は、あやかし園がぴったりだろうとのぞみは思った。
「わかりました。太一君が早く園に馴染めるようにしっかりとサポートしていきます」
 もう一度ガッツポーズをして見せると紅が目を細めて微笑んだ。