紅がにこやかに応えると、志津と呼ばれた母親が男の子の背中を押した。
「この子がお世話になります太一です。どうぞよろしくお願いします」
 男の子が負けん気の強そうな目で紅を睨んで口を開いた。
「お前が紅さまか?あやかしの親玉だって聞いてるぞ!強いのか?」
 紅に対して、挑むように言うその姿にのぞみは少し驚いた。
 あやかしたちは皆一様に、紅を長として敬い丁寧に接している。子どもたちも例外ではなく、親からよく言い聞かされていて、まるで父親のように接してはいるがぞんざいな口をきいたり、はむかったりするような者はいなかった。
「これ! 太一」
 志津が慌てて男の子の頭を抑える。そして紅に向かって頭を下げた。
「申し訳ありません」
 一方で紅の方は特に気にする様子もなく、「元気だなぁ」と笑って言った。
「父親の方が人間ですゆえ、なかなか言い聞かせられておりませんで、申し訳ありません」