「紅さまが皆の前で宣言したからだよ。"のぞみは嫁だ"と」
 出勤前ののぞみの部屋、煮干しをかじるかの子の隣で煎餅にかぶりつきながらこづえが言った。のぞみはその言葉に目を剥いた。
「え…?いつ?!」
「この間、一平が結界から追い出された夜に。のぞみもあの場にいたじゃないか」
 のぞみはえと言って固まった。
「…一平さんが紅さまに追い出された夜…?」
 のぞみもいたというならば、紅が一平に制裁を加えた時のことだろうか。たしかにあの時紅は『私の嫁に』というようなことを言っていた。でもあの場にいたのは、一平とのぞみと紅と…。
「…こづえさんいなかったじゃないですか」
 のぞみの問いかけにこづえは哀れむようにため息をつく。そして信じられないことを言った。
「もちろんいたよ。長である紅さまが、お怒りになっていることは山がおしえてくれるからね。誰がどんな掟を破りなんの罰を受けることになったのかを知りたくてあやかしというあやかしが集まっていたのさ。あの場に」
「あの場に!?」