のぞみの頬に紅がそっと手を当てる。促されるままに顔を上げるとニッコリと微笑む紅の笑顔。
「それはね」
「それは…?」
「それはもちろん、私がのぞみを気に入ったからだよ」
 そう言って紅はちゅっと音を立ててのぞみの頬に口づけた。
「な…!」
 驚いて言葉に詰まるのぞみの視線の先で、サケ子が再び「ほらね」と言って建物の中に消えていった。
 なんてこと。何もかも、彼女の言う通りだった。紅は単純な理由でのぞみを雇い、単純な理由でよそよそしくしていた。
 あんなにいろいろ悩んだのに!!
 やっぱり天狗なんて理解不能だとため息をつくのぞみを、再び紅が抱きしめた。
「のぞみ!!」
「ぎゃっ!」
「これでセクハラ解禁というわけだね!」
 意味不明の喜びを爆発させる紅をのぞみは両手で押すけれど叶わずになすがままにされてしまう。それでも必死で反論した。
「なななんでそういうことになるんですか?!」
「だってのぞみはここ最近私がのぞみに触れなかったのが不満だったって言ったじゃないか。ふふふ、いつのまにそんなに私を好きになっていたんだい」
「な…! ふ、不満だったわけじゃありません!」
 のぞみは真っ赤になって首を振る。紅は全く意に介さず、ご機嫌でのぞみの身体に手を這わせ始める。
「もう二度とそんな思いはさせないからね。それにしてものぞみに触れない日々はつらかったなぁ、近くにいるとついつい手が出ちゃうから、山に行ってばかりだった。カラスが慰めてくれたけれど、それじゃのぞみ不足は補えないからね。でも大丈夫、これからはお墨付きをもらったわけだから、こうして好きなだけのぞみに触れ…」
 バチン!
「触れられません! これからもずっとセクハラは禁止です!!」
 のぞみの声が、静かになったよるの森に響き渡る。
 何はともあれ、この日二人の間の誤解は解けて、仲直りをすることができた。