ピンときて彼を睨むと、紅がしぶしぶ口を開いた。
「だって、あぁでも言わないとのぞみはここで働いてくれなかっただろう? だから仕方なくだよ、仕方なく。それにたましいを取ると言って脅かしたこと自体はもう謝ったはずだ。あれから一度もしていないし」
 急に開き直ってそんなことを言う紅にのぞみは唖然としてしまう。
「じゃあ、契約の件も嘘だったんですか?」
「…まあね」
「信じられない…」
 本当にいい加減なことばかり言う天狗だと、のぞみは呆れるばかりだった。だけど、そうされなかったら今のこの生活はなかったのだというのも事実で、それを思うとなんだか不思議な気持ちになった。騙されたという気持ちはさておき、のぞみは少し考えて、口を開いた。
「…あの、紅さま。ひとつ聞いてもいいですか?」
 この際だから疑問に思うことは全部聞いてしまいたくなった。
「ん?なんだい?」
「どうしてそこまでして…、私を保育園に入れたんですか?」
 サケ子には"正解だった"と言ってもらえたけれど、こづえのことも一平のことものぞみが人間でなければ起きなかったトラブルだったに違いない。
 その他にも日常の中で起こる小さなかけ違いは数えきれないくらいあった。いくら人手不足だと言っても…。