思わずのぞみの口から大きな声が出てしまう。
 紅の向こうで、サケ子が「ほらね」と言った。のぞみはここ最近悩まされていた原因の意外すぎる真実に唖然とした。
「まさか、そんな理由で…?」
 紅が言い訳をするように口を開く。
「だってただでさえ、のぞみはセクハラに厳しいのに。知らないうちに嫁専用アパートに入居させられてたなんて知ったら…」
 しょんぼりと肩を落としている紅を見ていたら、のぞみは笑いがこみ上げてきた。サケ子は紅がよそよそしくする理由を"もっと単純な何か"のせいだと言ったけれど、本当にその通りだったのだ。
「ふふふふふ…、そんな理由で…」
 紅が安心したように息を吐いた。
 そして、「仕方がないじゃないか」と口を尖らせた。
「もうすっかりのぞみはここの一員で子どもたちは大好きだからアパートにいてくれないと困るんだよ。私のセクハラのせいで出て行ったなんてことになったら、私が皆に怒られてしまう。あぁでもよかった、のぞみはそんなつもりはないようだね。アパートの秘密を知っても出ていかないと約束してくれるかい?」
「約束って…ふふ、そもそも契約があるから仕事はやめられないって言ったのは紅さまじゃないですか。だから、私の意思なんて…」
 そこまで言ってのぞみは紅がまた気まずそうに視線を逸らしたことに気がついた。
「紅さま?どうかしたんですか?…まさか」