「わ、私が、アパートの秘密をしつこく聞きたがったから…それで紅さまの昔の話を聞いてしまったから…不快に思われたんでしょう?紅さまには、部屋も貸してもらって仕事もさせてもらっているのに…本当にごめんなさい」
 うつむくのぞみの瞳から残っていた涙がぽろりと溢れる。それを人差し指ですくってから紅が本当に意外そうに口を開いた。
「私がのぞみを不快に思うだって?」
 そして瞳を瞬かせて首を傾げている。
「…違うんですか?」
 のぞみが恐る恐る尋ねると、紅は「そんなわけないじゃないか!」と声をあげた。
「私がのぞみを嫌いになるなんて…。あぁ、でもそれで心を痛めていたんだね。かわいそうに」
 そう言ってのぞみをぎゅっと抱きしめた。
「きゃ!」
 のぞみは小さく声をあげてその近すぎる距離に少し戸惑い両手で彼の胸を押す。そして紅を見上げた。
「じゃ、じゃあ、どうしてここ最近よそよそしかったんです?私だけでなくサケ子さんも気になっていたくらいですから、私の気のせいではなかったと思います」
 のぞみの指摘に、紅が気まずそうに目を逸らす。のぞみは彼の袖をぎゅっと掴んで追求した。
「紅さま」
「のぞみが…」
 紅が小さくため息をついて、ぽつりと呟いた。
「あのアパートの秘密を知ってしまったから、のぞみが怒っただろうと思ったんだ。そして、これ以上私がセクハラをしたら、今度こそ本当に出て行ってしまうと思って…我慢してた」
「えぇ!?」