きっといままではあやかしだけで、平和そのものだった園にいらないトラブルが起きそうになっていることに、怒っているのだろう。のぞみは慌てて首を振る。
「た、ただ世話話をしていて、偶然に…悪ふざけで掴まれてこうなっただけ、本当にそれだけです」
 のぞみの言葉に紅は訝しむようにすっと目を細める。のぞみはもう一度、「本当です」と口の中で言って彼から目を逸らした。
 そしてしばらくの間、二人を居心地の悪い空気が包む。のぞみの言い分に紅が納得していないことが、空気を通して伝わってくる。
 だが紅は小さくため息をつくと、「わかった」と言った。
 そして、「…それでも鬼たちの迎えが来た時は必ずサケ子か私を呼ぶように。わかったね?」と念押しをして、帰っていった。
 のぞみは森に消えていくその背中をじっと見つめながら、左腕をさする。胸が苦しくて、目の奥が熱い。
 彼が消えていった森のからは、フクロウの鳴き声だけが、ホーホーと聴こえていた。