「鬼は、とにかく力が強いからね。三兄弟たちも子どもだからといって侮れない、…明日からはのぞみにじゃれつくのはやめさせよう」
 どうやら、保育園に通う三人の子どもたちが遊んでいるうちにつけたのだと勘違いしたようで、少し目を険しくしてそんなことを言う紅をのぞみは慌てて止めた。
「違います!あの子たちじゃありません!」
「じゃあ、誰?」
 紅にしては珍しい少し厳しい口調で尋ねられて、のぞみはこくりと喉を鳴らした。
「のぞみ、言って」
 静かだけど否とは言わせない紅の声音に、のぞみは少し考えてから、観念したように目を閉じた。
「お兄さんの一平さんが…」
「一平が?」
 紅の目がさらに険しくなって、目尻が赤みを帯びた。
「あいつがのぞみの腕を掴んだの?」
 一段低い声で紅が確認するように言う。否定することもできずにゆっくりとのぞみが頷くと、紅は「そう」と呟いて、じっとあざを見つめている。
 ただ子どもたちを迎えに来ただけの一平がなぜのぞみの腕を掴んだのかなど彼なら見通しなのかもしれないとのぞみは思う。こんなに冷たい目をする紅は初めてだった。