その日を境に紅ののぞみに対する態度が目に見えてよそよそしくなった。表向きは今までどおり優しくて穏やかな彼のままのようにも思えるが、気軽にのぞみをからかったり触れたりすることはなくなった。
 彼は仕事中でもかまわずにのぞみに触れて怒らせたり、わざと驚かしてのぞみをぞぞぞとさせることもしょっちゅうだったが、それも全部なくなった。
(これが当たり前なんだから…よかったじゃない、セクハラがなくなって)
 のぞみはそう自分に言い聞かせながら、心の中にぽかりと空いた穴に一生懸命気がつかないフリをした。
 今の状況を寂しく思うなんて、いったい自分はどうしてしまったのだろう?
 だがよく考えてみれば勢いだけで見ず知らずの土地に来たのぞみが心細い思いをせずに今日まで楽しく働けているのは、紛れもなく彼のおかげなのだ。 
 それなのに、過去のことを根掘り葉掘り探るようなことをしたのぞみに対して怒っているのかもしれないと思う。けれど謝ることなどできないままに、数日が過ぎた。