そんなのぞみを見てこづえは眉を寄せた。
「やっぱり…。のぞみは知らなかったんだね。変だと思ったんだ。あんたには全然その自覚がないようだったからね。まったく…紅さまはいったい何を考えているのやら。のぞみなんてまだかの子とそう変わらない子どもだろうに」
 まだ三つのかの子と二十一歳ののぞみが同じくらいの子どもだというのは少々乱暴な言い方だが見た目は十歳でも中身は九十八歳のこづえからしたらそうなるのかもしれない。それよりものぞみは、彼女の言ったことが未だに信じられなかった。
「どどどどういうことですか?よよ嫁だなんて」
 こづえは哀れむようにのぞみを見てため息をついた。
「紅さまは、この辺りのあやかしを統べる長さまだ。誰よりも力がある。嫁取りしたっておかしくはないだろう?」
 のぞみは目を見開いたままうんともすんとも言えなかった。そもそも、あやかしの結婚適齢期すらのぞみは知らない。
「それこそ、紅さまの嫁になりたいあやかしなんかこの辺りにはわんさかいるよ。それで勝手に集まってくるのさ…このアパートに」
「…それは天狗の女の人…?」
 のぞみが尋ねるとこづえはいいやと首を振った。