のぞみは驚いて言葉を失う。
　だが考えてみれば、あやかししか住んだことのないアパートを紹介してくれたのだから、当たり前といえば当たり前なのかもしれない。
「…でも、なぜおじさんは、私にアパートを紹介してくれたのでしょう。私はあやかしじゃないのに…」
「さぁてね」
　紅が首を傾げた。
「私がのぞみを気にいることが、わかっていたんじゃないかな」
　それは店子として？
　それともあやかし園の先生として？
　…口には出せない疑問が頭に浮かんで、のぞみの頬が少しだけ熱くなった。
「あ、あのアパートは人間が住んでもいいんですよね」
　紅はもちろんいいよと頷いた。
　でもそれとは別に、あのアパートには何か特別な決まりがあるんじゃないかという疑問がのぞみの頭に浮ぶ。だがその疑問を口にする前に保育園の方から呼びかけられた。
「あー！のぞせんせーと紅さまだ！おかえりなさい！」
　指さしているのは一つ目の子ヒトシだ。大きな瞳は遠くまで見えるだけじゃなくて、夜目もきく。のぞみは彼に向かって手を振った。
「ただいまぁー！」
　声につられて他の子たちも集まってくる。ぴょんぴょんと跳び跳ねて、手をぶんぶんと振っている。
　のぞみがくすくすと笑っていると、紅がわずかに目を細めて、「戻ろうか」と囁いた。