「そうだよ」
 のぞみはほぅと息を吐いた。
「きれい…」
 紅がふふふと笑った。
「本当に不思議な子だね、のぞみは」
「え?」
「怖がりで、たくさん"ぞぞぞ"を出すくせに、すんなりと私たちを受け入れたじゃないか。…子どもたちも、もうすっかり、のぞ先生が大好きだ」
 のぞみは頬を染めてうつむいた。
「そ、それは…紅さまが"ぞぞぞ"を食べてくれるから」
「でももう、保育園の中ではほとんど"ぞぞぞ"としないだろう?」
 そういえばそうだとのぞみは思いあたる。でもそれは、自然なことのようにも思えた。保育園に来る子どもたちは、よく遊び、よく笑い、そしてよく泣く。ちっとも怖い存在ではない。
「私たちのようなものを怖いとは思わなくても、受け入れられないのが人間というものだよ。のぞみのような子はそうそういない。稲荷のおやじはそれがわかっていたんだな。おやじは、人を見る目は確かだから」
「不動産屋さん!」
 のぞみは声をあげた。
「まさかあのおじさんも…?」
「あやかしだよ」
「そうなんですか!?」