突然紅が言った。そしてびくりと肩を震わせているのぞみを覗き込んだ。
「のぞみ、近道をしよう!」
 そう言って返事を待たずに、のぞみを抱き上げる。そしてそのままふわりと飛び上がった。
「え? 紅さま、あ! き、きゃああああ~!」
 夜の街にのぞみの叫び声が響く。だが周囲の人には聞こえてはいないようだった。そのまま二人は上昇して、電信柱の高さまで飛び上がる。
「ここここ紅さま!」
「ふふふ、大丈夫、大丈夫。しっかり掴まっておいで、もっと高くまでいくよ。そら!」
 そして、紅の下駄が電信柱の先を蹴った。
「きゃあああああ!」
 びゅーと風を切る音がのぞみの耳に響いて車も人も米粒みたいに小さくなる。
 のぞみは耐えきれずに、必死で紅にしがみついて目を閉じた。