「お兄ちゃん…」
 呟いて立ち尽くすのぞみの頬を一筋の光が落ちた。
「お兄さんを探すためにこの街へ来たんだったね」
 隣に並ぶ紅の言葉に、なぜそれを知っているのかと不思議に思うのぞみだけれど、そういえば不動産屋さんで事情を少し話したのだと思いあたりこくんと頷いた。
「…この街にいることは確かなの?」
 尋ねられてのぞみはゆっくりと首を振った。
「わかりません。一度だけ葉書が来たんです。元気だから俺のことは忘れてくれって。…連絡先も書いていませんでした。でも消印がこの街の郵便局だったんです」
 それだけしか手掛かりがなくては、いくら小さい街だとはいえ探し出すのは至難の業だろう。ましてや、まだこの街にいるのかどうかもわからないのに。
 それでもどうしてものぞみはここへ来ずにはいられなかった。兄はのぞみにとってたった一人の肉親なのだ。
 紅は「そう…」と言って、のぞみの頭を撫でた。
 その柔らかい感覚にのぞみはゆっくりと目を閉じる。なぜかはわからないけれど、彼にそうされると遠い記憶の中の母を思い出すから不思議だった。
「そうだ!」