「それに、こづえがどうやって"ぞぞぞ"を稼いでいるのかを薄々わかっていながら、きちんとのぞみに話をしなかった私も悪い。正直言って、のぞみがここまでかの子のことで心を痛めているとは思っていなかったのだよ」
 綺麗な眉を寄せる紅を見つめて、のぞみはぶんぶんと首を振った。
「勝手にかの子ちゃんの気持ちを決めつけて、意地になって…保育士として失格です。せっかく雇ってもらったのに…」
「そんなことはないよ、のぞみ。そんな風に言ってはいけない。人間の保育園でのしきたりは私にはわからないけれど、少なくとも今回はのぞみのその気持ちがこづえの考えを変えたんだ。実はこづえが働きすぎだということを、サケ子は随分と気にしていてね。…でもこづえはサケ子の言うことになど耳を貸さないし、私はそこに首を突っ込むほど思いやりのあるあやかしではない。だからこれでよかったんだよ」
 そう言う紅の目尻がわずかに赤みを帯びる。のぞみはその言葉を信じられない思いで聞いていた。
 紅が思いやりのあるあやかしではない?だとすればなぜ、なんの見返りもなく他のあやかしの子どもたちを預かっているのだろう。
 そうだそもそも…とのぞみの胸がコツンと鳴った。彼はなぜ、人間であるのぞみをわざわざ保育士として雇ったのだろう?
 人手不足だったから?
 それにしてものぞみが人間であるが故のトラブルは避けられないような気がするのに。
「…さぁ、私たちも帰ろう」
 そう言って紅は神社の方へ向かって歩き出す。
(やっぱり、不思議な人…)
 のぞみはその背中をじっと見つめて、そんなことを考えた。