それでも…。
 のぞみの脳裏に、かの子の寂しそうな瞳が浮ぶ。
「まぁ…迎えが遅いのはその通りだから、様子を見て私からも話してみよう」
 紅の言葉に、のぞみは頷く。
 だがもしこづえが、仕事ではない理由で遅くまでかの子を預けているのだとしたら、かの子がかわいそうだという思いはのぞみの中に確実に影を落としていた。しかもこづえは次の日も、その次の日もアルコールの匂いをさせて帰ってきたから、のぞみの中のその思いはどんどん大きくなっていった。
 そして三日後、ついにそれが爆発した。
 その日の迎えは特に遅くて丑三つ時もとうに過ぎた頃だった。しかも間の悪いことにかの子は夕食後に別の子どもと喧嘩をしてしょげていたから、自分以外の子どもが帰って一人だけになった際、泣き出してしまったのだ。
「お母さん、いつ帰ってくるの?」と言って泣くかの子にのぞみの胸が締め付けられた。両親が亡くなってすぐの頃はのぞみもよく泣いて、兄を困らせた。
 そんなことまで頭に浮かんで、いつまでたっても現れないこづえにのぞみは苛立ちを募らせた。
 そうしてやっと現れたこづえが、また例によって酒に酔っていたもんだから、のぞみの頭の中は彼女への疑念でいっぱいになった。