「急に上からの指示がなくなって、昨日は一日待ったんだけど。今日はもう行くのやめた。刑事さん、俺たちのしたことって詐欺にあたんの？　俺たちは“言われた通りバイトした”だけだけど」

悪びれる風もなく言う少年は、おそらくたいした罪には問われないと考えているのだ。むしろ、美味しいバイトがなくなって残念と思っているかもしれない。
巧は署への帰路、苦々しい気持ちで呟いた。

「判断できる年齢で、やることやっておいて、“罪になるのか？”って……。とんでもない連中ですね」

誉は冷淡な口調で答える。

「あの少年たちは、システマティックなアルバイトをしているような気持ちだったんだろう。罪悪感を極限まで薄める、うまい文言が並んでいるよ」

画像で保存してきたマニュアルは、巧も確認した。少年たちのスマホに直接送られたもので、業務内容の説明が箇条書きになっている。

『カードをお預かりし、即日現金を引き出してください』
『銀行協会の事業の一環であり、お客様には不安がないこと、キャッシュバックが必ずあることを伝えてください』
『不安感の強いお客様には無理強いしないようにしましょう』

振り込め詐欺を教唆しておいて、妙に優しい内容である。高校生たちは、これが振り込め詐欺であると重々わかっていながらも『マニュアルの内容を信じた』と言い逃れできると思っているのだろう。もちろん、実際は『知らなかった』で済むはずがない。