正直、嫌だ。
こんなもんを、私が落としたなんて二宮先生に思われるなんて……
けれど、カバンの中からはさっきのお返しとばかり催促のパンチが私の脇腹に放たれている。
「いっ、痛っ……」
「どうかした?」
二宮先生の眩しいご尊顔が、私の顔を覗き込む。
イケメン……顔が強い……こんな近くで拝ませて頂き、ありがとうございます!
だが、悲しいかないつまでもこうしてはいられない。
私は覚悟を決めた。
「あの……このノート、私のです……」
ならべくノートの表を見えない様にして、私は先生にそれだけ伝えると先程言われた用紙に、光の速さで自分のクラスと名前を書いた。
「あ、ありがとうございました! それでは失礼します!」
もうともかく今は、すぐさまそこから立ち去りたい。
ノートを抱え、急いで職員室を出て行こうとする私の背中に声が掛けられる。
「月見里さん」
振り返るとそこには、二宮先生が微笑んでいた。
「今度からは『漆黒のソルジャーナイト』ではなく、名前を書いておいてくださいね」
「…………は…………ぃっ…………」
顔から火が出る、どころじゃなかった。
穴があったら入りたい、では済まない。
ぶっちゃけ……死にたい。
本気で……
「しつれい……しました…………」
職員室を出た瞬間、私はスポーツバッグに重たい拳を一発おみまいしておいた。
中からは「ぐぇっ」というカエルの潰れたみたいな音がした。
ノートとスポーツバッグを抱え、とりあえず校内で人のいなさそうな三階の空き教室へと移動した。
随分前から鍵が壊れており、ホコリに塗れた机が積み上げられ放置されている。
使ってない部活の備品などが置かれ、物置部屋みたいになっている場所だ。
少し前に私も委員会で古くなり処分する事になった図書室の書籍を、ココへ一旦置いておく事になりこの場所を知った。
「で、このノートがなんだって言うんです?」
「このページを見ろっ!!」
カバンを空けると先輩は勢い良く飛び出し、机の上に置いたノートを開いて私の眼前に突き付けて来る。
「人ならざる物になりたい……?」
「そうだ! オレは確かにいつぞやの授業中、このノートにそう書き込んだ」
「はぁ、まあ確かに人ならざる物にはなってますけど……」
「間違えたんだぁっ!!」
「間違えた? 何をです?」
「オレがなりたかったのは、人ならざるモノだ! わかるだろっ!!?」
「……わかりません」