「失礼します」

 「おう、小和、新しいの書けたのか?」

 初めて見せたときは、部室で部活中に見せたが、2回目以降は部活外の時間に国語研究室に持っていくようになっていた。あれから何回か先生に見てもらっているけど、私的にもこれだなという作品はまだ出来上がっていなかった。今日も書いたのは、文章はいいが少し物足りない感じがした短編だった。

「っじゃ、読んでみるから。待っててくれ」

「はーい」

 もう数回もやってきた流れなので、緊張も恥ずかしさも初めてのころよりかは格段に減っていた。

「そうだ、小和、待っている間これ読んでてみ」

 先生から渡されたのは、クリップで止められた十数枚の紙だった。一枚一枚、びっしりと活字が並んでいる。

「これは何ですか?」

「まあいいから」

 先生は赤ペンを取り出すと私の持ってきた短編を読み始めた。最近は書き方の工夫なども教えてくれるようになり、少しづつ文章のレベルは上がってきていると思った。

 私は先生が読んでいる暇なので、先生に渡されたものを読むことにした。内容は勇者がドラゴンを倒すと言った内容のいわゆる王道ファンタジーだった。でも、私がいつも読んでる小説たちとは全く違った。とにかく読みずらい、主人公の口調はころころ変わるし、戦闘シーンでは情景描写が少ないためにみんながテレポートしているのか?という動きしているし、擬音語が多い。まだまだ探し出せば、ぼろがすぐ見つかった。やっとの思いで、読み切ると最後は夢落ちだった。

「どうだった?」

「なんかすごい作品でした。ごちゃごちゃで」

 ページを元に戻して、クリップを止めなおして先生に返す。先生は私の感想を聞いてクックッと喉の奥から足出されたような声で笑った。

「やっぱり、そう思うよな。それ、俺が小和と同じ年で書いた小説なんだ」

「そ、そうなんですか」

「ひどいだろ、まだ小和のほうが読める」

 先生は昔自分で書いたという小説を懐かしそうにめくった。パラパラとめくったところで机にかたずけ、私の書いた小説の話に移っていった。今日も前回と似たような感想をもらって、改善点を先生と考えた。直したらよさそうな、ところがいくつか見つかったところで教室に戻った。

 先生の昔書いた小説を読み終わってからずーと頭から離れないでいる。確かにすごい作品だったけどすごいの意味が違う、ネットでこんな作品にあたると読むのをやめてて、少し経てばすぐ忘れてしまうのに。何か、そんなに心に残るものがあったのだろうか?

「先生」

「どうした、小和」

「まだ、あの小説ありますか?あったら貸して下さい」

 放課後の部活の時に先生に貸してもらえるように頼んでみた。何がそう思わせるのかもう一回読み返してみたいと思ったのだ。

「いいぞ、あとで持ってくる」

「ありがとうございます」

 そして、先生が持っていてくれるのを待ちつつ、次の作品を考えることにした。毎回、内容を変えて書いていたのでそろそろネタが尽きてきた。何か面白くなりそうなことはないかとボケーと頭を空っぽにする。こういう時は、深く考えない方が、いい案を見付けやすいと私は思っている。

「小和、持ってきたぞ」

 先生が持ってきてくれた、紙の束を預かる。

「これ。家に持ち帰ってもいいですか?」

「別にいいぞ、でも、親御さんに絶対見せないでくれよ」

「分かりました」

 先生から借りた短編をもって家に帰る。家に帰ったら、もう一回読みなおすことにした。さっきよりも時間かけてゆっくり読めば、何か作品のヒントになるかもしれないしと思っていた。しかし、夜に何度も読み返してみるが短編はひどいまま変わらなかった。

 何日か、かかってようやく一つの解答を見つけ出すことができた。この本にあったものは作者のらしさだった。この作品には、先生しか書けない雰囲気があったのだ。私が書く短編はどの文章も様々な本からの受け売りで、私しか書けない本ではなかった。私と同じ本を読んでいたら、他の人にも同じ作品が欠けてしまうだろう。それが先生の書いた短編と、私の書いた短編との違いだった。

「先生、私らしさって、どうしたら表現できますか?」

 借りていた短編を返しに行ったついでに先生に聞いてみた。

「それって、俺が言えたら、小和らしさではないんじゃないか?」

「そうですけど」

「もし、これを読んでそれに気づいたのなら。この時が一番、自分の書きたいものを書いてた時期だって、言うと何かのヒントになるか?」

「書きたいもですか、もうちょっと考えてみます」

 そう言って、国語研究室を後にした。

 なぜあの短編に惹かれるのか自分なりに解決できたのだが、さらに考えなければならないことが増えた気がする。

 最近、先生の短編のことを考えて居たら先生自身のことを考えているときがある。先生らしさのある文章は好きだが、別に先生自身は好きじゃないと、自分で自分に反論していた。

 先生が書きたいものを書いてたと言っていたので、とりあえず私が一番好きなジャンルを書いてみることにした。今までは文化部だから硬めの本を意識していたが、それだと全然うまくいかなかった。

 それでも、内容が思いつかなかったので、ネットの短編で面白そうなやつを適当に読んでいった。どの作品にもまねしたい箇所があったので、それらをメモしながら読み進めていく。私が恋愛もののジャンルで検索をかけて読んでいたら、私が嫌いなタイプの小説に出会った。先生と生徒の禁断の恋を描いた小説だったが、今は情報が手に入るなら何でもよかったので、とりあえず読んでみることにした。すぐ、やめるかと思ったが最後まで読み進めてしまった。

 読み切った感想は、思ったよりも面白かっただった。ベタな感じではあるけれど、作者自身のらしさが出るだけで、テーマが同じであっても違った作品になっている。気付いたら、このテーマの作品のみを読むようになっていた。そして今の私なら、このテーマだったらどれよりも良い作品が書ける気がした。思ったらすぐ行動といった感じで書き始めたら、筆は止まることなく、ついには書き上げてしまった。

 書いた話は、国語教師と生徒の恋で、今までの中で、私らしさは一番出ていた短編だった。でも、こんなの先生に読ませられないので、学習机の奥にしまいこむ。朝方まで書いていたせいで、この日の授業は眠気を耐えるのが大変だった。