「大きな声出さないで。あの人がリョウだよ」
「想像以上にイケメンだ……。身長も高いし、亜弥、すごいよ」

 なにがすごいのかわからないけれど、自分が褒められたかのようにうれしくなった。青山さんは「でも」と口にする。

「すごい金髪だね。悪い意味じゃなくて」

 うしろに引っつく言葉はフォローなのだろう。

「違うよ」

 青山さんの言葉選びに苦笑しながら階段をのぼる。

「リョウはねクオーターなんだって。あの髪は元々の色なんだ。すごくいい人だよ」

 うしろからふたりぶんの感嘆の声がした。階段の音がいつもより軽やかに重なって聞こえる。
 重い扉を開けると、耳にピアノのメロディがすっと入ってきた。カウンターの向こうで木月さんがにっこりとほほ笑んでいる。

「いらっしゃいませ」
「こんばんは。約束通り友達を連れてきました」

 私のあとにふたりの「こんばんは」が続く。私はいつもの席へ。隣に明日香、その向こうに青山さんが座る。
 本当はテーブル席でもよかったんだけど、座ってから気づいたので仕方がない。

 三人が自己紹介している間にメニューを手に取る。あれ、ちょっと来ない間にラミネートされたメニュー表が新しくなっている。


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 Aセット…特製唐揚げ定食 1200円(税込み)
 Bセット…日替わり満足定食 1400円(税込み)
 Cセット…日替わり魚定食 1600円(税込み)
 ※すべてのセットにはドリンクがつきます
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「気づきましたか? もう少しわかりやすくしてみました」

 それって私が「わかりにくい」って言ったからだろうか。よく見ると、ついでに値上げもした様子。

「Aセットがおすすめだよ」

 食べたこともないのに先輩ぶると、ふたりは「へえ」と声を揃えた。

 にっこり笑う木月さんが、
「今日は一〇〇円引きしますから」
 いたずらっぽく言ったので笑ってしまう。

 青山さんがハッとした顔になった。

「ん?」
「ううん……」

 メニューに視線を戻した青山さん。グラスを取りに木月さんが奥へ消えると、こっちへ顔を近づけてくる。