青山さんの私服は想像どおりだった。

 むしろ、頭で描いたイメージそのままで、会ったとたん私は笑ってしまった。

「え、おかしい?」

 敏感(びんかん)に反応する青山さんに「ううん」と首を振ってから、改めて全身を観察した。

 黒いシャツ、黒いスカートに黒い靴。これってまるで……。

「お葬式の帰りなの?」

 明日香がきょとんとして尋ねるものだから、
「ちょっと!」
 と思わず言ってしまった。

「やっぱりヘンなんだ……」

 うつむいてしまう青山さん。明日香をギロッとにらんで視線を戻す。

「大丈夫だよ。ただ、青山さんらしくて素敵だって言いたかったんだよ」
「嘘だ……」
「本当に大丈夫。私なんていつも黒いパーカーを頭からかぶってるんだから」

 ぶすっとした青山さんをなんとかフォローしようとしているのに、「そうだよ」と明日香は大きくうなずいた。

「青山さんのほうが全然マシだよ」

 明日香の暴走が止まらないので、またひとつにらむと、ようやく口をつぐんでくれた。
 一方の明日香は、まるで披露宴(ひろうえん)に参列するみたいなピンクのレーススカートを穿いている。
 私はTシャツにジーンズという軽装。
 見事に三人ともバラバラな服装だ。

 駅前にいては目立つので、集合早々PASTへ移動することになった。時間は七時過ぎ。まだ補導される時間帯ではないけれど、念には念を入れておこう。

「へぇ、昼間より明るいね!」

 LED照明がまぶしい通りに入ると、テンションを抑えられなくなった明日香が走り出した。ひとつひとつの看板や電光掲示板に食いついている。居酒屋から昭和の歌謡曲が聞こえ、道端にはもう飲みすぎたのかサラリーマンが座りこんでいる。

 隣を歩く青山さんも、「へー」とか「ほー」と感心したようにつぶやいている。
 ほんの短い繁華街は、あっという間に終わってしまう。そこからは折り返してもう一度街並みを歩いた。

 大人の世界を知っているかのように案内するのは、気持ちが良かった。

「なんか不思議だね」

 ぽつりと青山さんが言った。
 言いたいことがわかる気がした。

「ほんと、不思議。まさか三人で夜に出かけるなんて」

 当たっていたのだろう、顔をこちらに向け、青山さんがうれしそうに目を細めた。

「だね。すごくうれしい」
「青山さんて、クラス委員でしょ? 絶対にこういう場所には来ないと思ってた」

 そう言うと青山さんはすねた顔になる。

「来ないっていうか、来させてもらえないの。クラス委員になったのも、親の命令だから」