洗濯機がごわんごわん回っている。

 ドラム式に換えてから、ぼんやりと洗濯機を眺めることが多くなった。丸い透明の蓋のなかで、回る回る洗濯物。
 打ちつけられ、絡まり、ほどけ、泡水にさらされるのを見るのが好き。

 今夜も伊予さんが帰ったあと、洗濯が終わるのを床にしゃがんで待っている。

 胸が、少し……少しだけ痛い。

 私はなんて贅沢なんだろう。リョウとうさぎさんの間になにもないことがわかったのに、恋をしないと言ったリョウに傷ついている。

 つけたままのペンダントに触れると、ひんやりと冷たくて痛い。

「あーあ」

 足を投げ出し、壁にもたれた。

「なにが『あーあ』なんや?」

 急に声をかけられ、「うわ!」と驚くと、ドアの隙間から大きな顔の小さな瞳がのぞいていた。

「か、帰ったんじゃなかったの!?」

 胸を押さえる私に、伊予さんはドアを開けてニヒヒと笑った。

「忘れ物してん。てか、なにしてんの?」
「べつに……。ちょっとぼーっとしてただけ」

 ふうん、とうなずいた伊予さんが、ドカッとその場にあぐらをかいたから驚いてしまう。

「じゃあ、ウチも真似するわ」
「しなくていいって。お子さん待ってるんでしょう?」
「今日から元旦那と旅行やって。朝からハイテンションで電話あったわ。やっぱり男同士のほうがええんやろうなぁ」

 窮屈(きゅうくつ)そうに座る伊予さんに、言葉が出てこなかった。私に言えることなんてなんにもない。
 洗濯機が脱水をはじめたらしく、モーター音が大きくなった。

「亜弥ちゃんもお母さんが亡くなったとき、さみしかったか?」
「どうだろう……。気づいたら亡くなってたし、たぶん、意味がわからなかったんだと思う」
「そうかー。小さいころやもんな」

 小学生の私には理解できないこと。だんだんとさみしさを感じるようになっても、それはあとになって気づいたこと。すべては終わっていたんだ。

「なあ、亜弥ちゃん」

 つぶやくような声は伊予さんらしくなかった。見ると、伊予さんは迷ったように目線を揺らせていた。

「亜弥ちゃんは、自分を助けられるようになったと思う?」
「……どうだろう?」
「素直になってるし、友達と呼べなくても知り合いも多くなったんやろ? きっと前やったら拒絶してたんやないかな」

 そう言われるとそんな気もする。