言葉を区切るとリョウは、
「夢があるから」
 とまぶしそうに目を細めた。

「木月さんみたくカフェを開きたいんだ。だからPASTで勉強させてもらっている。最低時給なんだぜ、あそこ」

 ニヒヒと笑ってから、リョウはまた視線を(くだ)ける波に戻した。

「開設資金に()てるため、昼間もたまにバイトしてるってわけ」

 私たちの前を、手をつないだ恋人同士が横切る。幸せそうに腕を組み、やわらかくほほ笑んで。

「自分の店のことを考えると、早く早くって気持ちばっかあせっちゃってさ。高校を卒業することも大事だけど、店を開くことばかり考えている」

 ひょいと立ったリョウが「そういうこと」と笑みを残し波打ち際へ歩いて行った。
 はじめて知ることが多すぎて情報処理がついていかない。宝石のようにいろんな色に輝く髪は地毛。さらにクオーターで大きな夢があるリョウ。急に遠く感じるうしろ姿に私も立ちあがった。

 ――好き。

 心が叫んでいる。うしろ姿を見るときだけ、リョウへの気持ちを素直に感じられるなんて。

 もし、今ここで『好き』だと言ったら、リョウはどうする?

 きっと困った顔をするだろう。こうしてふたりっきりで会ってくれなくなるかもしれない。
 波が作る白い泡を、ギリギリのところでかわすリョウ。気持ちを抑えるためには、平気な顔をしていなくちゃいけない。そう、友達として彼を応援しなくちゃ……。

「うわ、かかった!」

 よけそこなって濡れた靴。リョウが悔しそうに、でも楽しそうに目を線にした。大きな靴跡はすぐに波に洗われる。もう、跡形もない。
 
リョウのことをなにも知らなかった。
 髪を染めていると思っていたし、学校もサボっていると思っていた。悪そうに見えてしまう彼に惹かれていたはずなのに、真実を知れば、もっと気持ちは加速したみたい。

 私の胸のあたりに視線をやったリョウの顔がほころんだ。

「ペンダント」
「あ! そう、返さなくちゃって思ってて――」

 私のバカ。木月さんに言われたときに外しておけばいいものを。チェーンの先を探す手を、リョウの大きな手が包んだ。

「いいよ。しばらくそのままつけてて」
「え……でも」
「俺、もうつけないからさ」

 形見だというペンダントを私に?

 それって、期待していいの? 

 そんなやさしくされたら、私、どうしていいのかわからないよ。

 リョウの手が私の右頬を包んだ。

 大きな手で右の耳も半分ふさがれ、貝殻を耳に当てたみたいに波の音がぼやけて聞こえる。

 突然のことすぎて身動きばかりか息もできない。