私たちは目立つことが好き。けれど集団生活において、それはたいてい悪いことになってしまう。誰だって目立ったものを指さし非難している間だけは安心できるもの。

 みんな、誰もが、全員、自分の足元がぐらつかないように必死なんだ。

 せっかく染めてもらった髪も、根元に黒いものが目立ちはじめているこのごろ。
 夏休みが終わる前に、もう一度染めてもらおうかな。
 うさぎさんは、『リョウのファン』だと言っていた。リョウもうさぎさんに好意を持っているの? それとも客のひとりとして、線を引いて接しているのかな。

「それって、うさぎさんのお店で染めてもらってるの?」
 
 尋ねる私にリョウの頬は引きしまったように見えた。すぐに柔和(にゅうわ)な笑みに戻っても、違和感が胸に残った。

 なにか、まずいこと言ったのかな……。 

 カットモデルをするくらいだから、一緒に遊んでいてもおかしくない。やっぱりふたりはつき合っているのかも。

 不安になる私の気持ちをくんでか、「いや」と首を横に振るリョウ。

「言ってなかったけ? これ、地毛(じげ)だから」
「え、嘘!?」
「嘘ついてどうすんだよ。俺、クオーターだから」

 ざざんと波が大きく跳ねた。

 クオーター……? 

「じいちゃんがアメリカ人でさ。隔世(かくせい)遺伝(いでん)ってやつ? 目立つから、小学校のときはいじめられてさぁ」

 まるでなんでもないような口調でリョウは言う。

「んで、中学生になってからは逆にいじめっ子になった。上級生には(から)まれるしケンカばっかだった。先生まで地毛って信じてくれなかったり……まーいろいろあった」
「そうなんだ。……ごめん」

 無神経なことを聞いてしまった。言われてみれば、彫りの深い顔や高い鼻に、おじいさんの血が反映されている気がする。
 リョウの言う『いろいろ』には、私が想像もつかないようなことがたくさんあったんだと思う。

 それを私は勝手に勘違いして……。

 しゅんとする私に、リョウは笑い声で励ましてくれる。

「なんで亜弥が落ちこむんだよ」
「ねぇ……髪のことがあるから、高校に行かなくなったの?」
「まさか」

 指先で砂をひと掴み取ったリョウ。手を開くと水流のようにこぼれ落ちていく。

「前にも言ったけど、俺、不良とかじゃないからな。高校は卒業できるくらいには行ってるし友達もいる」