せっかくのふたりきりの海なのに、砂浜には何組かの先客がいた。

 サーフィンが終わったばかりの男性たちは、日焼けした肌に黒いウエットスーツ姿でじゃれあい、少し先の波打ち際には線の細いカップルの姿もあった。

 私たちはどちらからともなく、二組の中央あたりの砂浜に腰をおろした。
 西に出っ張った山のおかげで直射日光も薄く、海からの風がおだやかに髪をくすぐっている。

 横顔のリョウはなにも言わず、波の音を聞くように目を閉じている。
 昼間の海に来るなんて不思議な気分。
 少し前の私なら信じられないことばかり起きている。
 そんなことも、この大きすぎる海と、かなたにぼやけて見える水平線の前では自然なことにすら思えた。

 昔、私のおじいちゃんが『海は偉大(いだい)だ』と言っていた意味が、ようやくすとんと胸に落ちた。

「昔から海が好きでさ。でっかくて無限ってくらい広いのに、宇宙と違って(さわ)れるし」
「私も」

 リョウが好きなことは私も好きになる。

「めっちゃ解放感あるよな。最近は忙しかったし、夜の海しか見てなかったからたまんねー」
「え、夜にここに来てるの? 怖くない?」

 あたりを見回しても街灯なんてない。真っ暗な海を見に来るなんて、これまで考えたこともなかった。

「ちっとも。バイクの明かりがあるし、それに、今の季節だとあのへんに月がぽっかり浮かんでるから」

 まあるくリョウの指先が斜め上に円を描く。

「ちょっと先は見えないのに、遠くでは月の光に海がキラキラしててさぁ。波が砂を(けず)る音がいくつも聞こえてくるんだ。それを聞いているとさ、『今ここで死んでもいいや』って気になる」

 さらりとそんなことを言うから、私は悲しくなる。
 なのに、「そっか」と気弱にうなずくことしかできない。

「今度さ、夜の海を亜弥に見せてやるよ」
「うん」

 深い意味はないのだと自分に言い聞かせる。ただの友達である私に、ノリで交わした約束なんだ、と。

 リョウは私のこと、どう思っているのだろう。

 隣をさりげなく見ると、やわらかそうな髪がシルバーに光っている。時間や場所によって色を変えるなんて、カメレオンみたい。

「リョウの髪、不思議」
「あー、よく言われる。でもこれのおかげで大変なことも多いんだよなぁ」

 前髪をつまんで口をへの字に曲げるリョウ。