――ガコン。

 音にふり返ると、リョウが自動販売機からミネラルウォーターを取り出した。
 ひょいと投げられたペットボトルを、反射的に受け取った。

「待ってて。着替えてバイク取ってくるから」
「え、あの……」
「すぐ戻る」 

 ぶっきらぼうに駆けていくうしろ姿は、太陽を受け、ただまぶしかった。
 冷えたペットボトルの温度が急上昇しそうなほど、体ぜんぶが暑くて熱い。キャップを開ける手ももどかしく口に含めば、なんだか泣きたいほど幸せだった。

 バイクを押して戻ってきたリョウは、なにを言うわけでもなく、駅に向かって歩き出す。

「これ、ありがとう」

 少し飲んだペットボトルを持ちあげる私にも、
「ああ」
 と、そっけない。

 緊張が喉までせりあがっていて、だけど、なんだか心地いい。会えないときのさみしさも、もどかしさも、ぜんぶ太陽が吸いこんでしまったみたい。

 これまで苦手だった太陽が少しだけ好きになった気分。

 駅前の駐輪場にバイクを停めるとリョウは、「うーん」と背伸びをした。陽だまりのなかのネコみたい。
 額には汗が浮かび、シワだらけの白シャツが目にまぶしい。

「これからさ、海でも行く?」
「海?」
「バスに乗ればすぐだし」
「バス?」
「お前、質問ばっかりだな」

 苦笑するリョウに、海の映像を頭に浮かべた。なんだか、急に行きたい気持ちでいっぱいになる私は単純なのだろう。

「海、行こう。バスは三番のやつだっけ?」

 テンションがあがった私に、リョウは「はは」と笑った。
 セミの声に見送られるようにロータリーへ向かう。

「原付の免許取ってから、全然バスに乗らなくなったんだよな。亜弥は?」
「私もあんまり乗らない。昼間は出歩くこと少ないし」
「だな」

 よし、普通に話せている。

 プシューと激しく音を立てたバスに乗りこむと、暑さは瞬時に(やわ)らいだ。
 昼下がりのバスは、夏に向かって走り出す。

 どんどんスピードをあげるバスの横で、恋が並走しているみたい。
 次の停留所でバスは止まるけれど、恋は立ち止まらずどんどん先へ走って行く。

 ブレーキのかけかたなんて、知らない。